《作品解説》
日活映画には、アクションの他に
確実にコメディ路線が存在した。
ヒットはしなかったものの、相当
の本数が作られている。
例をあげると、古くは「フランキ
ー&ブーチャン」シリーズであり、
著名なものは「幕末太陽傳」があ
る。また「渡り鳥・流れ者シリー
ズ」のアキラさんとジョーさんの
会話や藤村有宏さんのセリフなど
にもそれが顕れている。
喜劇役者が主役であるコメディは
数多いが、こうしたケースのコメ
ディは少ないと考えます。
有名なのは「若大将シリーズ」く
らいなものでしょうか。かつて、
東映で「台風息子」シリーズとい
うのがありました(1958〜61)。
江原真二郎さんや美空ひばりさん
の弟、小野透さんや主演のがあり
ました。その後高倉健さん主演の
「天下の快男児・万年太郎」「同
・旋風太郎」(1961〜62)に引
き継がれて行きます。どちらも現
在では内容を忘れました。
『東京の暴れん坊』は、当時人気
絶頂であった小林旭さんのコメデ
ィ路線として後にシリーズ化され
た第一作です。
特にタイトルバックの絵がアーテ
ィスティックなラフな感じでおし
ゃれです。
小林信彦氏は著書「東京のロビン
ソン・クルーソー」の中でシリー
ズ中では一番できの良い作品とさ
れています。
特にファーストシーンからの20
分程度は小気味良いテンポで、
全てが関連した形で話が進みます。
例えば、一本槍のラジオからアキ
ラの歌声が流れると、一本槍の驚
いた顔(後に親不孝な声という表
現あり)に、音はそのまま受け継
がれ場面のみ湯船につかり歌う姿
のアキラに変わる。
番台の秀子も女湯の客もしばらく
聞き惚れるというシーンなど。
その後も関連した場面転換の面白
さがあります。
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清水次郎こと、銀座の次郎長(小林旭)。フランスの大学を1年前に卒業し、
今は銀座の洋食屋「キッチン・ジロウ」の若旦那である。
レスリングが得意で今日も、とある大学で後輩たちを相手にしいた。
その隣ではフェンシングの練習が行われていた。
その中の一人の女性がマスクをとり、親しみを込めた表情でとなりのマットの次郎に
視線を向けた。その女性は幼なじみの「松ノ湯」の娘、秀子(浅丘ルリ子)。
彼女は密かに次郎に恋焦がれているが、 次郎には幼なじみ以上の思いはない。
そんな彼女の姿を2階から熱い視線を送る二人が居た。
「あの娘なら、私の息子にぴったりじゃないか」含み笑いでつぶやく中年男。
(東西産業社長、この男が後に大きく関わってくる)
次郎と秀子は、いつものようにお互いに減らず口をたたきながら共に学校を出た。
かつて総理大臣を務めたことのある一本槍鬼左衛門は乗用車で移動中、
ラジオから流れる自分を非難するマスコミのコメントに対して立腹する。
「けしからん!」とたんにラジオのアナウンサーが「失礼しました」と答える。
他の局に切り替える運転手。
スピーカーから突然流れ出す甲高い声「アイラブ・ユーラブ・・・」
思わず目をむく一本槍。
(その歌声は、そのまま「松の湯」で湯につかり歌う次郎の姿に結びつく)
女湯の客も聴き惚れている。
その内の一人、バーのマダム・リラ子(中原早苗)は、勢い余って他の客と、
とっくみあいの喧嘩を始めた。番台に座る秀子は、それを見て男湯の次郎に助けを求めたが、
裸のままの次郎をまともに見ることができない。
女二人の喧嘩を止めに入った次郎は大きな声で「やめろ!」と一喝した。
その途端に腰に巻いたタオルがポトリ。それと同時に丸の内の時計の針が逆戻りし、
交差点を歩く人々は逆戻りし、松ノ湯の煙突の煙が逆流し、煙突の中に戻った。
銀座の通りが見えるパーラーの窓際でお茶を飲みながら話す次郎と秀子。
「時間が逆戻りしたかと思ったわ」と秀子。「もう、あんな驚くことは二度とないだろう」と、
次郎が言ったとたんに、秀子の母が次郎の店に車が突っ込んだと知らせに来た。
店に戻ると、見事に店の中に突っ込んだ黒い車があり、中にいる人物が居丈高に
「早く行かんか」と叫んでいる。それは一本槍鬼左衛門だった。
次郎は、一本槍に謝れと言うが、彼は頑固に「無礼者」と受け付けない。
警官が到着し、その場はとりあえず治まった。
夜になり、銀座の電光掲示板にも「ジロウ」に車が突っ込んだとニュースが流れる。
キッチン・ジロウに銀座の愚連隊「台風クラブ」の千吉(近藤宏)が仲間を連れてやってきて、
事故の落とし前をつけてやるといいがかりをつけて来た。
しかし、あっさりと次郎は断る。
フランスにいて、銀座の事情を知らない次郎に父親は冷や冷やしている。
こちらには考えがあると引き下がった千吉。
あっさり引き下がった相手に次郎は不信感を抱いた。
鎌倉のとある場所の一本槍の住まいに台風クラブの千吉たちが鬼左衛門を相手に
息巻いていた。そこへ次郎が現れる。
次郎は近くの浜辺へ台風クラブを連れ出してこらしめた。
そこへ鬼左衛門が家伝の槍を携えてかけつけた。
やみくもに槍を振り回す鬼左衛門をなんとかおさえた次郎は、台風クラブを逃がしてやった。
改装が進む次郎の店。
一本槍が工務店の社長を連れて訪れた。次郎は何処かと訊ねると、修理工場にいるとの事。
修理工場では、向こうが店を直してくれているからと、次郎が一本槍の車を修理していた。
銀座の空から、ヘリコプターが花びらのように、ジロウの新装開店を知らせるビラをまく。
美しくなり、フランス料理専門店となったキッチン・ジロウでは、外国人の姿もちらほら。
次郎がフランス語でフランス大使夫婦を迎えている。一本槍が現役の外務大臣を迎える。
そんな所へ一人現れた台風クラブの千吉。しかし、様子が少し違う。
鬼左衛門の槍から救ってくれた次郎に恩義を感じた千吉は、雇ってくれと頼みに来たのだ。
快く握手して迎える次郎。
そんなところへ、一大事とリラ子が飛び込んでくる。
店の奥へ次郎の手を引いて、身をすりよせんばかりに話す二人の姿に秀子は気が気ではない。
ーーー回想場面としてーーー
バー「アルマン」の店の2階にあるリラ子の部屋。
上半身をワイシャツ、下半身は下着のままの好色そうな男、金田(藤村有弘)がリラ子に甘
えるようにすり寄っている。
そこへ別の客が来たと店のホステス・トシ子が知らせて来た。
あわてたリラ子は金田を洋服ダンスに無理矢理押し込んだ。
そして、現れたのはリラ子の別のパトロンである浜川(小沢昭一)だ。
来る日ではないが、近くに来たからとリラ子にすり寄る浜川。
洋服ダンスに閉じこめられた金田が騒ぐ、気が付く浜川。
そんなところへまた現れたのが3人目のパトロンである今村。
鉢合わせした3人のパトロンは、リラ子の権利を主張し言い争う。
それぞれが訪れる曜日を主張しあった結果、日曜日が空いていることに気づいた。
リラ子は、その日は一番好きな彼のためにあると言う。
パトロン3人は、その男といっしょになればリラ子を許すと誓う。
そんなやりとりがあって、リラ子は次郎がその彼だと言ってしまったことを告げる。
その夜、リラ子の部屋の向かい側のアパートの部屋からのぞく3人のパトロン。
部屋では男女のシルエットがからみあって、一つの影となり倒れ込んだ。
秀子は、そのシルエットを見て気が気ではない。
勢いよくバーのドアを開けると、意外にも次郎とリラ子は涼しい顔をしてカウンターに
座っていた。秀子は二階のシルエットのことを訊ねると、トシ子と彼だと教えられた。
二階のベッドの上ではトシ子が男と結婚の約束をかわしていた。
ところ変わって、芦ノ湖のキャンプ場。
寂しげに悲しげにトシ子が一人、ボートでギターを弾きながら歌う。
(注:ギターは「渡り鳥」で使われていたDianaのギター)
楽しそうに歌い踊る若者達の集団。そこへ台風クラブが所場代を出せといんねんをつける。
襲われた女性たちが、他の場所でキャンプをしていた次郎たちのもとへ助けを求めに来る。
元台風クラブの千吉は次郎の助けを借りて連中を追っ払う。
そして翌朝、起きてこないトシ子のテントには睡眠薬を飲んで虫の息のトシ子がいた。
付き合っていた男に他の女と結婚するので、別れて欲しいといわれたことを病院で聞いた。
その上、トシ子は男の子供を宿していた。
次郎は千吉といっしょになって東京中を探した出すと決意し、男を求めて歩く。
野球場でついに男を発見し、その男の住まいを訪ねるが、そこはボロアパートで、
その上、妻と子沢山の世帯持ちだった。
がっくり肩を落として帰る次郎。
一方、男の部屋では押し入れからむさくるしい姿の実際のこの家主人が現れ、男から礼金
を受け取っていた。
しばらくして、思い直した次郎は再びアパートを訪れ、押し入れに潜む本当の主人を見つ
け騙されていたことを知るが、男は東西産業の御曹子で近々、松ノ湯の娘と結婚の予定で
あること。それは松ノ湯の土地を手に入れ、大型アミューズメント浴場を建設する計画で
あることを教えられる。
キッチン・ジロウの閉店後、次郎と秀子がテーブルにつき、後かたづけをする千吉の姿が
あった。秀子に事の顛末を話し、秀子の式に一計を案じる相談をする。
深刻顔の二人を気遣い千吉はトランジスタラジオのスイッチを入れ、ムードミュ
ージックを流し、自分はそっと店の外へ、そこへ突然の雨。
店の中では次郎と秀子が二人より沿ってダンスをしていた。
結婚式当日、秀子の輝かしいウエディングドレス姿。付き添いはリラ子。
(秀子は母親に前日睡眠薬を飲ませて到着を遅らせている)
式を間近に控えた御曹子をリラ子が廊下に呼びだし、待っていたトシ子に会わせる。
御曹子は突然現れたトシ子に驚くが、二番目に好きだったとその場をつくろう。
バージンロードをリラ子に付き添われ、ウエディングドレスの花嫁が進む。
新郎の御曹子が手をとって迎え、神前に・・・
そこへ遅れましたと、次郎の両親と秀子の母親が到着し、花嫁がトシ子に入れ替わって
いることで大騒ぎ。新郎の父親は結婚式の中止を叫ぶ。
そんな時、間髪を入れず、元総理大臣の一本槍が登場。トシ子の親代わりをつとめると
申し出る。新郎の父の社長は政界につながりができると喜んで納得。
しかし、共に松ノ湯の土地買収を企んでいた台風クラブの会長は、このままでは治まらない。
とっくに閉店時間を過ぎた「キッチン・ジロウ」で、台風クラブ会長と幹部連中が飲み食い
をしている。千吉が閉店だと告げると、千吉がやめたことに文句をつける。
あげくには次郎を出せと騒ぎ出す。
そんな所へ出前から戻った次郎、話し合いではおさまらない連中に次郎の怒りが爆発。
外に待機していた台風クラブの子分達も乱入し、フライパンで応戦するコミカルなアクション
が繰り広げられる(マンボのリズムでダンスのような小気味の良いアクション)。
ボロボロになった店内で、一本槍が工務店の社長に
「今度こそ、絶対につぶれないものを作りなさい」と檄を飛ばしている。
銀座のデパートの屋上、行き交うクルマや多くの人々が小さく見える。
次郎と秀子と、お添え物の千吉の3人。
「ねぇ、今日はどういう日だと思ってんの?」とムキになった表情の秀子。
とぼけた調子で次郎が
「お天気のいい日曜日だね」
怒ったような調子で秀子が
「そんなこと聞いてないわよ、あたしたちにとって、どういう日か聞いてんのよ」
「あぁ、映画見てさ、お茶飲んでさ、銀座ながめてさ、なんてことない日曜日だな」
「へえーっそう、あ、そうですか」とふくれる秀子。
千吉が会話に割って入り、邪魔者は消えろってことですね、と姿を消す。
広がる銀座の青空にヘリコプターが飛び、花びらのような宣伝ビラをまいて遠ざかる。
そのビラには・・・
「近日開店 更に面目一新! キッチン ジロウ」とあった。
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