渡り鳥シリーズ8作目『渡り鳥北へ帰る』は、昭和37年(1962)の公開作品。公開当時はシリーズ最終回の予定ではなかったが、結果的に最終回となった。事情は様々あるようだが、ファンとしてはもう少し滝伸次の活躍を見てみたかった。偶然か意図されたものか、ロケ場所はシリーズ最初のロケ地の函館である。

ストーリーは、かつてのバンド仲間が麻薬取引のトラブルから殺された。犯人は右手にサポーターをはめたコルトの政であると、死に際に友人の口から聞く。その友の遺骨を抱いて彼の故郷である函館を訪ねる。訪れたとたんに、子供の交通事故に遭遇する。近くの医院に子供を預けて伸次は友人の実家を訪ねると頑固な父親に冷たくあしらわれる。しかし、妹の由美だけが親切に接してくれた。伸次は由美に、死んだ友人のかつての恋人のの行方を訊ねる。幸江は今では悪の巣窟のキャバレーで下働きをしていることを知る。造船所を経営する由美の父親である岡野は町の金融に多額の借金をしていたが、手形がこのキャバレーの社長の黒川にまわり、黒い影が忍びよろうとしていた。そんなおり、由美は何者かに大金を奪われる。友を殺した犯人の影を追い、弱い善人を苦しめる悪に立ち向かう伸次の怒りが爆発する…。


とっても詩的な北海道の雪

ルリ子  
北海道が、あまり寒いので私、よわいワ。

旭    だって、ルリちゃんは、アンカレッジやシアトルをまわって、アラスカの方まで行ってきたんだろう?

ルリ子  それはそうだけど……。

旭    そんなら、云うことないじゃないか。

ルリ子  旭クン!

旭    あれ!? ちょっとショック……。

ルリ子   詩を愛し、モチロンご自身も詩人でいらっしゃるアキラらしくもないセリフなんだもの……。

旭    どうも、どうも、恐れいりやす。ところで、それで……?

ルリ子  こう、大きなストーブが赤々ともえて、側に甘いみかんが、しゃれたカゴに入れてあって……。

旭    食い気かい?

ルリ子  ストップ! いいコト、私が大好きな手芸をしながら、目を外に転ずれば……。

旭    シンシンと雪がふりつつのかい?

斉藤   どうも、どうも遅くなってしまって、ルリちゃん、えらく詩人だね。

ルリ子  あら、いやだ、先生に聞かれてしまって……。

斉藤   どういたしまして、つづけてつづけて……。

ルリ子  私、なんといっても、日本の冬くらい季節感を思わせるものってないわね。

旭    ところは、北海道とくれば、舞台も文句ないしね。

斉藤   やっぱし、冬は寒くていいんだよ。

旭    ハワイのお正月は、ムウムウ着て、フウフウ云ってるものね。日本くらい四季があって、夏は暑く冬が寒いのが、ヤッパシらしくっていいよ。

斉藤   函館の元町の坂上から見た港の景色、あれは実になんとも云えないなガンガン寺が静かにみえて、長い間、胸に描いた風景なんだな。モスクワかペトルブルグといわれたロシアの雰囲気があるんだな。

旭    海外ロケ、モスクワ版を函館でしたことになるんだな。

ルリ子  函館は本当に、いい街ね。

斉藤   一口に云えば、もちろんいい街っていえるのだけど、何ていうのかなあ。

旭    オレに、一口に云わしていただけば、心にしみる街っていうわけだな。

ルリ子  そうね、「北帰行」の映画のように……。

 

北海道に緑のあるトリオ

斉藤   ここで、宣伝さしてもらっちゃあ悪いようだね。「北帰行」って云えば、わたしの友人が登山好きで、ちょっとしたベテランでね、そいつが集まって、食ったり飲んだりする会があって出てくると、調子がよくなると「北帰行」を歌うんだ。

旭    ヘェー。

斉藤   いい歌だなぁ、と思って“何ていうのかい?”ときいても、ヤッコさんのんきだから“北大の山岳部の歌なんだ。山へ行く奴の間じゃあ、よく歌われているよ”なんて、カンタンに云ってたけど、まさか、わたしが映画にするとは思わなかったな。

ルリ子  「北帰行」と先生とは、ご縁があったのね。

旭    ご縁なんておかしいよ。

斉藤   ご縁といえば、函館が、あの「挽歌」のブームで有名になった原田康子さんの作品で「白い悪魔」の舞台だったね。

旭    ええ、あれが9本目の作品で、先生に撮っていただいたんです。

ルリ子  私は「ギターを持った渡り鳥」で函館ロケが初めて……でも、北海道には実によく来たわね。

旭    「ギターを持った渡り鳥」は、29本目のもの、9とはエンギのいい、ご縁だね。

ルリ子  私も9の数は、大好きよ。

斉藤   お互いに実によく歩いたね。まあ「渡り鳥北へ帰る」の旭クンの主題歌の入ったこの映画が一応、「渡り鳥」ものの決定版だからね。

旭    なにしろ、バンコックまで飛んじゃったからね。

ルリ子  北海道では、おいしいものいただいたわ。生じゃけのむしたのや、むしウニなんか、とってもおいしかったわ。

斉藤   ルリちゃんって、飲めるようなものが好きだね。

旭    この人は、実に辛口だね。

ルリ子  うれしくなっちゃうような、おつけもの頂いたのよ。私、お母さんのおみやげにしようと思って……。

旭    オレも、おふくろのおみやげにしようと思って、それからイクラも買って行こう。

ルリ子  私ひとつ博学になったの。イクラってロシア語ですってね。

旭    オレ、学があるんだね、知らず知らずに使っているなんて……。

斉藤   普通すじ子っていうね、あれで、熱いメシをふうふうしながら食うと、まったく家を思い出すよ。

ルリ子  先生が、そんなホームシックになるなんて……。

旭    ルリちゃん、お株うばわれたね。 オレにしても味噌汁なんかでおふくろを思い出すものな。

ルリ子  パンじゃあ、ピーンとこないものね……。

旭    パンじゃあ、パーンとこないよ(笑)

 

辛かった早廻りの新記録樹立

ルリ子  何しろ、北の国のロケは日本的ね。

斉藤   とはいうものの三時間たらずで東京から、北日本航空の飛行機で着いちゃうんだからね。

ルリ子  そうね、私、青函連絡船のほうがいいわ。なにか情緒があるもの。

旭    ルリちゃんは詩人だものね。

ルリ子  アキラすぐに茶化すんですもの……。やっぱし、飛行機の方が早くっていいものね。

旭    そうそう、ルリちゃんは世界早廻りの保持者だもんね。(注)

ルリ子  あまり、恥をかかさないで、あれは、私の知らない間に……。

斉藤   そうケンソンしなくてもいいよ。なにしろ、外国女性がルリちゃんみて、日本女性は忍耐強いって、感心してたっていう記事を見たけど……。

ルリ子  ホント、あれを思い出すとツライわ。みんな、インドの人にしても、サリーを美しくまとっていれば、そのお国の服装でいいのだけど、着物は、それは苦しいの。

旭    お察しするぜ。

ルリ子  どうも……でもこの苦しみは、帯締めを何本も締めなければ分かってもらえないわ。

旭    どうしても、やはり、日本女性の代表としては、いかに苦しくとも……。

斉藤   涙ぐましい努力だね、一番美しかったそうだね。

ルリ子  どうもありがとう。

 

想い出つきぬ渡り鳥ロケ

旭    話違うけど、こう寒いと、佐渡ロケも寒かったとか……色々と思い出すなあ。

ルリ子  本当に、ずうーっとお付き合いをしているものね。

旭    でも、この頃では久しぶりだね。

ルリ子  そうね、私の年一度のボーナス映画っていうのかしら? 女性ものの「どじょっこの歌」に出ていたから……。

斉藤   そうだね、何か、ああいったものに出ているルリちゃんは全然、大人っぽいね。

旭    オレがいつも兄貴らしくかばってやってるからね。

ルリ子  どうも、ふつつかな妹で……。

旭    何しろ、雰囲気があるものね、まったく長いご縁でね。

ルリ子  アキラは本当に丈夫ね。本当によくダイナマイトのような男なんて、うまいニックネームをつけたものね。

旭    この頃、歳をとって少しばかし傷を負うこともあるけどね。

斉藤   今だからナイショ話に云っちゃうけど……アキラ君のもの凄いパンチのきいたアクションにルリちゃんが、「ああ」なんて声をあげて、NGになったことがあったっけね。

ルリ子  そう、思い出しても冷や汗よ、あの時ごめんなさいね。

旭    そう、そう、でも、あれは、ルリちゃんのおかげで命が助かったというものさ……なにしろ、うしろ一ミリもない岸壁のペキで、錠さんと決闘なんだもの。

ルリ子  その下が青い、青い海ですもの。

旭    ルリちゃんが、傷だらけになったこともあるものね。

ルリ子  そう、あれは宮崎のえびの高原のロケで、足が傷だらけになって、泣き出しそうになったことあるわ。

 

たのしうれしいファン気質

斉藤   なんとか云ってもロケは、旅することがあるので楽しいね。

旭    何しろ、函館は、高校時代、国体の柔道選手として来たこともあるし、「白い悪魔」で来たし……

ルリ子  「ギターを持った渡り鳥」と……。

旭    オレは、函館は割合と顔なじみで、あのロケの時は、ルリちゃんを連れて見物したね。

ルリ子  そう、思い出すわ、ホントに詩的だったわ。

斉藤   函館山に登ると、鳥の首ののような低地に街がひろがっていて、その両端が青い海で切れている。そんな景色をみていると、画を描きたくなるし、詩をつくりたくなるね。

ルリ子  私、修学旅行のようにとびまわったわ。トラピスト修道院にちょっぴりあこがれて……。

旭    バター飴が欲しかったんじゃあないの?

ルリ子  あら、失礼ね。でも、函館に来たら、どうしても買って帰るものの一つよ。

斉藤   もう熊の木彫りは?

旭    あれもずいぶん買ったね。重い思いをして求めて帰るけど、この頃東京では、よく物産展があって売られるものね。

ルリ子  なにしろ、日本はせまいのね。

斉藤   そうでもないよ。いろいろ、いいところがあるよ。

旭    オレ達が旅なれ過ぎているんだよ。

ルリ子  それもそうね。

斉藤   アキラ君は、ベストドレッサーぶりを発揮して服装には、よく凝ったね。

旭    何しろ、イキにマフラーをなびかせて、皮ジャンをひっかけて、半長靴とくれば、今の若い者にはピンとくるからな。

斉藤   ロケ地で、二日目には、もうそのスタイルがはやっているもんだからね驚くね。

ルリ子  私のトコロにもファンの方から、どこで作ったんですか?とか型紙貸して下さいなんて云ってくるのよ。

斉藤   そうだね、ルリちゃんが着ているものは、ルリちゃんらしい清純さがあるもの。ハイティーンの人が欲しがる無理ないな。

旭    ああ、よかったムスメがいなくって……。

ルリ子  あら、オヤジさんみたいなセリフね。

斉藤   映画の影響力は、実につよいね。

旭    それがケッサクで、よれよれのハンカチを首に巻いたりして、皮製じゃなくてって泥のついた雨靴とかで……。

ルリ子  そこが、アキラの大衆性よ。

斉藤   それがアキラ君が、みんなから受ける秘密だよ。

旭    オレは、何しろ、イッパン的なんだな。

斉藤   それは大切なことだよ。人々の心の中に、すぐピーンとくるってことは、映画とか、歌という事だけでなく、一番大切な要素だよ。

ルリ子  アキラちゃんは、映画スタアにならなくったって人間的な魅力があるもの。いつでもリーダーシップをとるわ。

旭    どうも、どうも、ミカンでもどうぞ。

ルリ子  本当よ。

旭    そうだね。何しろ、人々によろこばれるようなものを、これからも作りたいですね。

ルリ子  そうね。でも……私たちって、ひとつもハッピィ・エンドになったことないわね。

斉藤   何か、一抹の哀愁が残っていて……。

旭    それのほうがいいよ、いつまでも、なんていうのか、余韻が流れて、また次回のお楽しみがあってね。

ルリ子  ター坊と早苗ちゃんは一緒になるし、みんな幸せになるのに、渡り鳥ものはいつまでたっても結ばれないのね。

旭    そうヒガむな、ヒガむな。でも……そう云えば、ター坊、幸せそうな顔していたよ。

斉藤   何ごともこれからさ。ルリちゃんもお年頃だからな。

ルリ子  そういうわけじゃないけど……やっぱし、そうかしら。

旭    早いものだね、子供だ、子供だと思っていたら……。

ルリ子  あら、失礼ね。

旭    すぐふくれるトコロは、子供だね、あいかわらず……。

ルリ子  一方では、そんな子供っぽいお年頃的な思いもあるけど、もう一方では、よいものをやりたい!という意欲がもりもりよ。

旭    ポパイのようだね。

斉藤  ルリちゃんは、女優として、今が一番大切な時だね。

旭    昔から、カンがいいけど、ルリ子ちゃんは努力型だね。

ルリ子  なんだか、今日は、とってもほめられて北海道の雪の夜に、こんなにはげまされるとうれしいわ。

斉藤  これもロケの良さだね。

ルリ子  私、今、本もいろいろ読んでいるし、心に沁みるような話をきいたり……。

旭    そうだね。何しろ、もうお正月だっていうのに、オレたちには、なかなかレジャーが来ないね。

ルリ子  そうね。俳優は、生きている毎日がみんな勉強なんですものね。

斉藤  そうだね。ルリちゃんも、すっかり、大人になったね。

旭    とはいうものの、案外子供っぽいトコがあるんだな。

ルリ子  そうなの、さっき元町の通りの洋装店で、ものすごくイカス布地みつけたの。今夜は寝ないでデザインして、東京へ帰ったら、お頼みするの、うれしいわ。

旭    あのブルー、いい色だったね。

ルリ子  いいでしょう?それに北海道は木のものが、いいのがあるでしょう?だから、何かいいネックレスやブローチ類探すの……。

旭    それじゃあ、オレもおふくろさんにシャレた帯どめでも探すかな、姉貴にも……。先生はいかがですか?

斉藤  じゃあ、みんなにひかれて奥方殿に何か選ぶかな。

ルリ子  わぁ、楽しいわ。

旭    ロケが終わりに近づくと、なんとなく家が恋しくなるね。

ルリ子  私もウチの犬がどうしているかな?とか、お庭の芝のこととか、思い出すわ。

斉藤  それが人間の良さ、渡り鳥もののよさだね。遠くにてふるさとを思い、またとびたつ。

旭    そうだな。オレは、もちろん映画もだけど、歌も深く研究するよ。

ルリ子  私もよ、少しばかし、家庭的になるために、ママからお料理を教わったし……。

斉藤  そうだね。人間は、ものごとは多くの面からみられなくてはね。そのために、色々してるんだね。そしてこのふる雪のように、しんしんつもっていくのさ。

 ルリ子  先生、よいお言葉ありがとうございました。


<参考:別冊・近代映画「渡り鳥北へ帰る・特集号」1962年1月下旬号より>
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<危険な断崖対決シーン>
ハジキの政との断崖絶壁での対決シーン。
銃を持たない伸次に、政が銃を2挺取り出して好きな方を取れと云う。
  



(演技指導中)このまま行くと、足を踏み外し墜落!
映画の中では墜落する。
 

ルリちゃんの「世界早まわりの旅」
昭和36年(1961) の11月22日に羽田国際空港(当時の東京の空港はここのみ)を出発。フィリピン、タイ、パキスタン、イラン、スゥエーデン各国の女性と日本代表の浅丘さんの6人を乗せたDC-8ジェットが世界記録に挑戦するというもの。アラスカのアンカレジを経て北極を越えてコペンハーゲンへ。さらにローマ、テヘラン、カラチ、カルカッタ、バンコック、マニラを経て日本に戻るコース。タイムは五十時間十五分(当時としては素晴らしい記録)。この記録は、1960年1月にアメリカ人が作った五十一時間四十五分の記録を軽く破った好記録。まるまる二日間ジェット機の客席に座りっきり。その上、着物を着替えることもできず、ゆっくり眠ることも出来なかったとか。

 
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