■「渡り鳥シリーズ」を改めて考察
いつか誰かが新たな渡り鳥シリーズを企画するものとは思っていたものの、この時期にこうした企画台本が見つかるというのは不思議な出会いを感じます。渡り鳥シリーズは、昭和34年(1959)10月に公開された『ギターを持った渡り鳥』を第1作として全8作が制作された(左写真参照)。
渡り鳥シリーズの原点となった作品は『南国土佐を後にして』(1959)とされる。小林旭、浅丘ルリ子のコンビで制作された本作品はペギー葉山が歌って大ヒットした曲のタイトルをそのままに使用されている(企画段階の台本には「ダイスの眼」とある)。
渡り鳥シリーズが当時の若者に与えた影響はこれまでに様々なカタチで語られている。本サイトでもその影響の一部を紹介したページがある。当時の1960年安保闘争運動が社会現象として大きくとり上げられる中で、世の中に一種の閉塞感が漂っていた。そして、そこからの一時的なドロップアウトが満員の映画館だったのではないだろうか?
主人公が着る革ジャンもどきのジャンパーを着て映画館へと足を運ぶ若者たちの思いは、いつか自分たちも果ての知れない旅に出て、どこか知らない土地の娘と知り合いほのかな慕情を寄せられる夢を見ていたのかも知れない。渡り鳥シリーズが続いたのは豪快なアクションだけではなく、こうした抒情性が若者の埋められない心の隙間を埋めたからであろう。
プロットが全て同じような設定であっても、それだから細部のこだわりが浮かび上がる。これは回を追う毎に面白さが輝いてくる。代表的なひとつに永遠のライバルである敵対する殺し屋との奇妙な友情である。特に前半の宍戸錠とのセリフのコンビネーションは最高である。これらの部分はもう一方の「流れ者シリーズ」の作品にも現れている。しかし、当時演じておられたご本人たちにとっては、それが渡り鳥なのか流れ者なのかは演じている最中には意識はあるものの終わってみれば全てが同じように思えたようだ。
これは昭和35年11月発行の別冊近代映画「大草原の渡り鳥」特集号の「渡り鳥随筆」の中に記されている以下のような文章からだ(※小林旭さんの直筆と思われる)。
早いものだ。この一年余りの間に「南国土佐を後にして」以来、既に十本目の渡り鳥シリーズに出演したことになる。いまその十本目の作品「大草原の渡り鳥」の撮影で、さいはての秘境、北海道の阿寒に来ている。
とあるように「南国土佐…」と、「波止場の無法者」及び、それまでの流れ者シリーズ作品を数えると丁度、十作品目となる。「南国…」「波止場の無法者」「ギター…」「口笛…」「海から…」「…いつまた帰る」「海を渡る…」「赤い…」「南海の…」「大草原…」となる。この時期には、これらの作品以外にも銀座旋風児シリーズも撮影され全てで15本となり驚異的である。
上記雑誌の内容に興味深い逸話があるので、もう少し引用してみよう。
渡り鳥シリーズの歴史は、今更ボクが喋々するまでもないことだ。だが、その誕生の秘話は余り知られていない。日活お家芸の単にタイムリーな歌謡ものにするか、あるいはこれを大作に仕立てるかの二者撰一に立たされた当時の話である。この時、江守常務の大英断がなかったら、恐らく一編のヒット作にとどまっていただろう。(中略)娯楽こそ映画の真髄である、大げさにいえば、この作品によって、ボクの映画観がすっきりと割り切れる思いがした。「大衆、特に若い人は英雄的な人物が好きだ・・・社会にとざされた夢をこの英雄に求める」この明快な社会心理学が渡り鳥滝伸次を生み、流れもの野村浩次を生み、銀座旋風児二階堂卓也を生んだことをボクはよく知っている。それだけに、勧善懲悪の英雄は強くならなければならなかった。ボクはそのためにボディビルや、体操などで身体を鍛えた。無論好きな好きな酒も断った。その上早射ちの拳銃さばきの練習で、指に血が出るのも忘れた。これはボクだけの苦労ではなかった。殺し屋錠(宍戸)さんをはじめ、みんなの努力によって日本版西部劇の完成を急いだのである。
このように明確にヒーローを意識して作られてきたからこそ、その魅力は永遠に輝き続けているのだ。この秋には「ギターを持った渡り鳥」が切手シートとして発売される。人々の心に永遠に刻まれたヒーローこそ渡り鳥なのだ。
■「渡り鳥シリーズ」は、ディティールにこだわる
渡り鳥シリーズと流れ者シリーズについての演じ分けや細部(ディティール)へのこだわりは、1970年代に行われた小林旭さんへのインタビューに現れている。以下は掲載紙からの引用。
『ヒーローは違っても、やってる本人は同じ人間なんだから、結局、見た目でかえようということで、「渡り鳥」のカッコというのはきまりの西部劇スタイルでいこうと。「流れ者」は、ウェスタンに出てくる流れ者ではなくて、その町の中にいる農夫のスタイルといった感じで。「渡り鳥」というのは完全なさすらいのガンマン・スタイルで、「流れ者」は町に定着した人間の農夫的な拳銃使いの男の感じという具合に。だから、頭のカッコも違うし、衣装も違うし、その程度で分けるしかなかったね』
●渡り鳥シリーズの各作品については左の写真をクリックし、リンク先ページを参照して下さい。
新・渡り鳥予告案内(クリックすると観られます)
■「新・渡り鳥」のタイトルが付いた台本
ここからは台本に記述された内容の一部を引用としてそのまま掲載します。
・表紙:新 渡り鳥 (NKマーク)日活カラー作品
・プロデューサー 丹野雄二(株式会社DAX) 岡田裕
・脚本 山崎 巌
・監督 斉藤 武市
・人 物
滝 伸次(34)
エースのジョウ(35)
朝吹聖子(26)/ ルミ(23) / 富岡刑事(30) / 武田竜造(45) / 武田光子(40)
武田圭子(19)/ 武田 茂(7) / 吉川信夫(21)/ 南條(35) / 鬼頭(30) 他略
フォーリーブス / 江木俊夫
※全てを紹介できないので、一部のみを端折って紹介(笑)
陰謀渦巻く函館の地に、警察の追究をかわし孤独な影を宿す男がギターと共に下りたった。
滝伸次(34)…通称“渡り鳥”。
折しも彼の地に呼びよせられた尾羽打ち枯らした男が一人…通称“エースのジョウ”(35)。
数々の想い出の地、函館を舞台に、ここに宿命の二人の男の対決が今、甦る。
そして滝伸次の真の目的とは…○○年の時を経て、ここに幻のファン待望の物語が、
今語られようとするのか !
乞、御期待 ! !
・・・(情報提供者でもあるsanaeさんから戴きました)
函館の港に着いた滝伸次は本庁の刑事に突然追われる羽目になるが、辛くもシスター姿の朝吹聖子の手引きにより刑事をまく。
武田牧場の牧場主と子供の茂を岩場で助けた伸次は、武田牧場が南條不動産からの無体な融資により牧場が狙われていることを知る。その手先として現れたのは殺し屋のジョウだった。どちらが町を出るかと勝負になるが、引き分けに捨てぜりふを残して去る。
ジョウは旧知の仲である町のボス、鬼頭の事務所には、銀行の金を横領した元支店長とその情婦、過激派崩れの青年が身をよせていた。
北九州での暴力団闘争で指名手配の記事が掲載された新聞を持ち、鬼頭に売り込みに来た伸次。外国への高飛び費用が欲しいとうそぶく。
「ナイトクラブ・エメラルド」のステージでは、フォーリーブスが歌い踊っている。VIPルームではジョウと南條が伸次の身元について探り合っている。そこへギターの音色が・・・店内で歌いまくる伸次。それを控え室で聞いたフォーリーブスの江木俊夫はあることを思い出した。歌う滝に駆け寄った俊夫だが、滝は会ったことがない人違いだと突っぱねる。
突如、店に現れた武田は南條に牧場買収の猶予を懇願するが受け容れられない。
一方、滝は船賃を稼ぎたいと、ジョウにダイスの勝負を挑む。息詰まる時間が流れ、結果は伸次が勝ったが、ジョウのいかさまにより勝ちを譲られたことを知る。 夜の町を行く伸次の前に突如としてシスター姿の聖子が現れ、この先であなたの助けを求める者がいると伝えて消える。
滝が橋のたもとにかけつけると、傷ついた武田が倒れていた。南條たちの嫌がらせだ。傷ついた武田を牧場に送り届け、ジョウとの勝負で巻き上げた金を借金返しに使ってくれと滝は去る。
・・・とここまで書いて後は大変なのでご勘弁を・・・以下、流れのポイントのみ。