大暴れ風来坊

俺たち名コンビ対談
 小林旭さん・宍戸錠さん

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<文中敬称略>

 <はじめに>
 『大暴れ風来坊』を撮影中の小林旭さんと、宍戸錠さんの対談です。舞台となった松山にちなんだ文学話、アキラさんの人物評、ダイヤモンドラインの
 人物評まで飛び出します。そして錠さんの役づくりの哲学などについて楽しそうに語られています。

 
 漱石も惑う赤シャツの坊ちゃん

 錠 (あらたまって)コンニチワ。では始めましょうか・・・。

 旭 イヤだな、このひと(笑)

 錠 だってさ、俺たちみたいにしょっちゅう一緒にいると、あらためて対談なんて
   変だろ、何だか・・・。

 旭 まあ、そう言わずに・・・。

 錠 商売、商売か(笑)

 旭 そこでロケーションの時の話でもしようじゃないの。

 錠 松山はどうだった?
 
 
 どうだつたって、自分はどうなの?

 錠 俺はどこでも同ンなじさ。旅行はもともと好きだけど、仕事で行くと人がたかっ
   ていけねえ。

  殺し屋ジョウの絶大な人気のタマモノであります(笑)

 錠 俺はどこまで行っても三枚目だよ。でもアキラの人気は四国じゃ特に凄いんじゃ
   ないかな「南海の狼火」と今度の「大暴れ風来坊」。

  人がたかって凄かったのは「海を渡る波止場の風」。

 錠 あれは鹿児島か。俺たちが裸になってたらきゃあきゃあとそのさわがれたこと。

  一体に九州、四国だな。南国の人は人情が厚いし・・・とにかく親切だよな。

 錠 でも北海道もいい。

  考えてみると俺たちあんまり真ん中へんじゃやってない。

 錠 北海道、大島。

  佐渡ヶ島、あとは四国と九州。

 錠 本州でやったのは磐梯山だけか。

  良かったな、あそこも。夕焼けがすごくイカして・・・。

 錠 でも、今度の松山もよかった。 
  
 
 風呂が良かった。道後温泉の・・・。

 錠 (笑っている)

  何をニヤニヤしているの?

 錠  えへへへ・・・。

  ああ風呂のこと。錠さん、俺が風呂の中で暴れてるって笑うけど、いい気持ち
   なもんだぜあれ・・・。とにかく今度は御存知「坊ちゃん」のホームグラウン
   ドだからな。グッと坊ちゃん流に暴れてやろうと思ってさ。

 錠  おまけに赤シャツ着てる。

  錠さんはこう見えても相当の文学青年だからウルサイ(笑)
   今度のロケで赤いシャツのゴキゲンなのよく着てたんで俺は「坊ちゃん」のつ
   もりでいたら、赤シャツだってさ(笑)敵役になっちゃいけないねェ。

 錠  俺の役だよな。

  ところがご本尊は「十字架の政」なんていっちゃって黒い服着てる。

 錠  二人そろって「赤と黒」か。

  文学青年うるさいな(笑)
   でも真っ赤な服の殺し屋、ちょっとイケるんじゃないかな。

 錠  じゃあ、今度は赤で行くか。

  人呼んで赤ん坊の政(笑)

 錠  聞いたことねぇな、そんなの(笑)

  しかし松山城のロープウェイってのはいいね。

 錠  そうそう。少しはコマーシャルをしなくっちゃいけねえ(笑)

  もうひとついいのは、面河渓の紅葉、噂に聞いてたけれどきれいなところだった。

   歌も冴えたね。

  きれいな景色の中で歌うと実にさっぱりするもんな。


 カンナンわれを玉にす

   その点、北海道は最高だった。

  北海道は映画界に入る前にも行ったしロケも三度目なんだけど、こないだ(大
   草原の渡り鳥)が最高だったね。やっぱり阿寒の方まで見なくちゃ北海道の魅力
   は語れない。

   いままでは函館か・・・。

  せいぜい札幌どまりであんまり方々へは行かなかった。

   ひとンちの玄関だけのぞいたようなもんだね。

  まるでコソ泥だね。

   今までの流れ者と渡り鳥シリーズで一番苦労したのは何だろう・・・と。

  皆それぞれに思い出がぁ(と詠嘆調)。
              
 
 (受けていずれあやめかかきつばた・・・そうでもねえか(笑)

  まあ苦労したっていえば「海から来た流れ者」。

   あれが流れ者第一作か。

  大島の溶岩地帯で岩をよじのぼったり、錠さんとの格闘シーンもあったし。

   ずいぶん血が出た。

  そう手も怪我したし、膝なんかひどくすりむいて・・・。

   ルリちゃんが、アキラが怪我したって真っ青になってた。俺のことなんかちっと
   もかまっちゃくれねえ(笑)

  嘘ですよ。意外にひがむねえ(笑)しかし、ルリ子も危ない宙吊りをやって。

   皆一生懸命なのがこのシリーズのいいとこよ。

  これこれ又コマーシャル(笑)

   しかし最初はテレたね、アキラも。

  いくらなんでも最初はね。「ギターを持った渡り鳥」ン時なんか全然見当が
   つきやしねえよ、最初は・・・。そりゃあ、それまでにも似たようなアクショ
   ンものもやってたけどさ、何しろ世界的スケールの活劇を作り出そうって寸法
   なんだから大変だ。しかしテレると絶対に駄目。ラッシュを見ると、テレるこ
   とがわかっちゃうんだな、これが。

   スクリーンにいつわりなしか。

  だからこれはイカンと思って、斉藤武市先生とも、とっくり相談してさ。
   「口笛が流れる港町」のころからはもう大した抵抗はなくなっちまったんだな、
   これが。

   カンナン汝を玉にす、か。

  それは錠さんも同じこと。どうやって新しい面白味を出そうかと・・・。

   (シンミリと)お互いに苦労したもんな(笑)

  ホント、ホント。


 アキラは根ッから“渡り鳥”的だ


 
 ところでここらでアキラの人物評をやろうじゃねえか。

  さあ、どうぞ。

 錠  要するにだ。

  イヤな奴だ(笑)

   そう、イヤな奴だ(笑)、という人もいるかも知れん。しかし、ここで声を
   大にして弁護するとだ。

  文学青年が弁護士になった。

   被告はダマッてろ(笑)アキラは強いし、悪くいえば人に誤解されやすい。
   大体スタアってものを色眼鏡で見過ぎるんだ、まわりが・・・。

  (まじめにうなづく)

   俺も最初はちょっとイケスカないと思わんでもなかった(笑)

  最初は錠さんは少しおつかなかったな。
    何と言っても撮影所じゃ先輩だったし・・・。

   しかしだ。俺はすぐその間違いに気がついたんだ。つまりアキラってのは人
   一倍純粋なんだよな、意外に。

  意外には余計だな。

   つまり生一本のところがある。ところが一皮むけばこんないい男は滅多にいない。

  錠さんをのぞいてはな、とお世辞を一つ。

   そうだ(笑)ここでてめえをPRしちゃいけねえな。

  弁護人がんばれ。

   といわれて買収されるわけじゃないが、人間は何かちゃんとしたシンがなくちゃ
   いけない。それが一部では非妥協的に見られるかも知れないけど、といって別に
   人を妨害するわけでもないし、迷惑を及ぼすことはないんだからな。

  しかし、全くそうですね。
   錠さんだって似たようなところがある。大体ね、渡り鳥とか流れ者が成功したの
   は、この映画の主人公や殺し屋にもそういう何か一本気なところがあって、それ
   が俺たちの性格と何かウマが合うんだな、そこにうまく行った原因があると思う
   な。

   アキラにしちゃ意外にアカデミックな解釈をするじゃねえか(笑)しかし、
   それは本当だね。だから俺たちは、いつも魅力ある俳優になるには、まず魅力
   ある人間にならなくちゃいけねえっていうんだ。

  たとえばチャンユー(裕次郎)みたいにね。

 
 トニイ(赤木)だって、ヒデ坊だってそうだよ。いい加減な人間じゃ画(え)
    にもサマにもならないよ。


 殺し屋ダイヤモンド・ラインを斬る


  
そいじゃ、錠さんのダイヤモンド・ライン評はどう? 敵役の立場から・・・。

 
 
そいつぁ仲々難しい、とにかく四人四様、それぞれ相当の違いがあるね、
   これは。人間としては四人とも割合デリケートだよナ。

  チャンユーなんか“若年寄”なんていわれるけどさ(笑)若いくせにすごくしっ
   かりしてるよね。

 
 よく気をつかうし。

  それでいて太っ腹でさっぱりしてる。

 
 細心豪胆とはあのことだ。

  僕の理想像なんですよ。大まかなようでいて神経を配ってる。
   一番男性的だと思うな、そういうのが・・・。ただやたら凄んでいるみたいなの
   は、勇ましいけど本物じゃない。

 
 アキラも意外に細かいこと言うな。

  さっきから意外に意外にとよく言うようだけど、ちょっと気にくわねえな。
   俺はこれでも、見かけは乱暴なようだけどもさ。

 
 意外に(笑)ロマンティストってんだろ。

  そう思わないかなあ。

 
 思う、思う。全くそのとおりであります。

  そこへ行くとトニイはロマンティストのようで案外豪快な男だね。

 
 裕ちゃんやアキラほどは細くないかもしれんね。

  しかし彼も人一倍しっかりしてる。感心するよ。

 
 そこへ行くとヒデ坊は天真爛漫だ。

  まったく俺たちが羨ましいくらいだからよっぽどだ。

 
 でも意外に礼儀正しい。

  これが本当の意外だ(笑)

 
 しかし、これからの役者は私生活までだらけちゃ駄目だ。別に今までが悪かった
   というわけじゃないが、何しろマスコミ発達の時代だからな。社会人として完成
   した姿でなければいかん。大ジャリ、小ジャリの注目の的にもなってるんだから。

  錠さんは評論家になっても一流だな。

 
 殺し屋評論家か。

  それじゃイカン(笑)しかし、スクリーンの上はいいが、本物の殺しはよくない。

 
 全くだ。俺はね、空想の世界では色々な悪があつてもいいと思うんだ。
   人間の気持ちは大部分が善の部分だが、誰にだって少しは悪の部分が巣くってる
   んだからな。それを空想の世界で発散させてくれれば、現実に持ち出さなくなる
   んじゃないかな。

  殺し屋哲学だな。しかし俺たちもとやかく云われるけど、映画を見て犯罪をする
   ってのは、どうみても直接の動機にはならないと思うけどな。

 
 だから俺の殺し屋は何か憎めないユーモラスなもので行ってるんだ。

  根本的には平和主義の。

 
 何せ十字架の政だからな。アーメン、アーメン(笑)

 

   歌でも錠さんは好敵手


 
 ところで錠さんの吹き込みはどうでした?

 
 当代一の人気歌手にそう言われちゃヨワイ、ヨワイ(笑)

  しかし錠さんの声は魅力だからナ。

 
 歌のことならお前の話をしろよ(笑)あんまりいうと容赦しねえぞ(笑)

  とんだ平和主義だな(笑)しかし民謡ってのは楽しいね。
   もういい加減歌ったけれど、まだまだ沢山あるよ、民謡は・・・。

 
 歌は昔から好きだった?

  子供の時からね。よく歌ってたよ。酒飲むようになってからは、酔っぱらうと
   人に聞かせて大変だったらしい。自分じゃ酔っちゃってよくわからんけど。
   迷惑したといってる奴が多い。

 
 今ならそんなこといったらバチがあたる(笑)パチンコ屋なんかアキラの歌を
   かけつづけだってな、このごろ・・・。とにかく本職の歌手よりレコード売れる
   んだからひどい奴だ、こいつは(笑)

  とか何とかいって自分の歌の話ごまかしちゃった(笑)しかし錠さんの歌は絶対
   受けるよ、間違いないよ。

   やりたい「大宇宙の渡り鳥」

   ところでいよいよ外国行きだね。

  日本だってまだまだ舞台になるところはあるんだが、しかし何といっても海外進
   出は気持ちがいいね。

   あっちじゃあんまり人だかりもしないだろうからな。

  どうかな。仕事も仕事だが、多少は見物もしたいしね。

   日本じゃ見物どころじゃない。

  こっちがされてる(笑)

   しかし東南アジア行きの「波濤を越える渡り鳥」はストーリーが面白いからね。

  やっぱり舞台が広がると、どうしても話のスケールがでかくなる。
   しかし俺はいつまでたっても滝伸次か野村浩次だが、錠さんはいいね。
   今度は“ラオスの虎”なんていっちゃって、ゴキゲンだね。

   日本人だか何人だかわかんねえってのが気に入った。

  今度のストーリーはファンの方も驚くよ。意外、また意外、ぐっと面白いこと
   請け合いだよ。

   まるで夜店だね(笑)全くコマーシャルにかけては、二人とも抜け目ないね(笑)

  ホンコンやバンコックの街もいいが、メナム河の夕景なんて考えただけで胸が鳴
   るね。

 
 腕でないとこがミソだ。トンブリの丘の決闘なんてぞくぞくするじゃねえかよ。
   覚えてろ(笑)

  もう来年からは世界が勝負の土俵だからな。

   いいですよ。行かしてくれる所はどこへでも行きますよ(笑)

  近いところじゃ沖縄、ハワイ。

   ハワイも近いところに入ってる(笑)

  椰子の木陰で・・・。

   いいねえ、レイをかけた女性を抱いてか。オットこれはアキラの領分だ。
   俺はレイのかげからピストルを取り出して・・・。

  残念でした。ハワイ娘は渡り鳥の前に立ちふさがって・・・。

   この人は父の命の恩人です。撃つなら私を撃って-か。
   あんまり面白くねえな(笑)

  まあ話はじっくりと考えて、いいのが出来たら原先生(渡り鳥・流れ者シリーズ
   の原作者、自民党代議士原健三郎氏)にこっそり教えてあげようではないか。

   アキラ得意の領分だ。それこそ。

  大体俺は詩なんか作るの好きだからなあ。へえーなんて意外な顔する人が多いの
   は心外でありまして(笑)自信あるんだがなあその方は・・・。

   文学青年は意外にお前だよ。

  また、意外が出た(笑)

   ワイキキの浜辺で詩作にふけるか。

  錠さんの歌でも作ってあげますよ。

   哲学者ジョーの歌。

  GIジョーって奴もいる。

   オールド・ブラック・ジョー。

  それは西部へ行った時がいい。黒ずくめの服装で。
   オール・ブラック・ジョーだってさ(笑)

   それよりロケ地の最高にいかす奴、キリマンジャロがあるぜ。

  こいつあぐっと豪快雄大だ。

 
 外国映画でもよく出る奴だもんな。

  俺たちもとにかく世界を征服しなくっちゃ。

 
 そのうち「大宇宙の渡り鳥」か。

  火星人のボスをやっつけちゃう。

   ミサイルの政だな、そうなったら。

  実現しそうだな、その話、意外に・・・。

   生きてるうちは無理かな。

  お互いにその日まで元気に働きましょうや(笑)

        
           (資料:「別冊近代映画・大暴れ風来坊特集」より)

 特集・2 山崎徳次郎監督訪問

 

 

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